卒業生インタビュー「先輩、教えてください!」連載(1)

健康科学科を卒業し、多方面で活躍する先輩に、在学生や教職員がインタビューします。

今回お話を伺う先輩は、京都市で養護教諭として働く田之上啓太さん(健康科学科10期生)です。養護・看護実習室にて、在学生4名がインタビュアーとしてお話を伺いました。

(取材日:2021年3月21日)


Part 1:養護教諭の実際

――今日はよろしくお願いします。まずは、現在のお仕事について教えてください。

田之上啓太さん(以下、田之上さん) 京都市の学校で養護教諭として働いています。

学生A 田之上先輩は、全国でも少ない男性の養護教諭ですね(帝京短期大学・中村先生によると、男性養護教諭は全国の養護教諭総数の0.12%)。実際のところ、男性養護教諭に対して、学校現場での反応はどんな感じですか?

田之上さん まだまだ一般的ではないな、とは感じますね。ただ、僕自身の経験では、あまり拒否的な雰囲気を感じたことはありません。周りの先生や子どもたち、保護者の方も、初めのうちは「えっ、男の人なんだ」という反応をされますが、そのあと、「男性だから」ということで困ったことはないですね。

学生B そうなんですね。健康科学科にも、各学年数人の男子学生がいて、そのなかには養護教諭を目指している人もいますが、はじめは「男子もいるんだ」と思ったけれど、そのあとはあんまり意識しないですね。

田之上さん そうだよね、健康科学科では、男子は少数派だよね。ぜひ仲良くしてあげてね(笑)。

――男性だから困ったことはない、というお話ですが、困ったこと以外で、男性「だから」という違いはありますか?

田之上さん うーん、違いはあまり感じないですね。男だから、女だからという差を感じたことは、僕はないです。いま、多様なジェンダーについての認識も広まりつつあるし、学校では自然に受け入れられていると思っています。

学生C ときどき、男性養護教諭については「女子への対応はどうなんだ?」という指摘も見かけるのですが…。

田之上さん ああ、そうだね、女子特有の、例えば生理の話とかを気にする人もいるかもしれない。でも、子どもたちは話題と場所と先生を見て相談するかどうか決めていると、僕は思っています。養護教諭が男の人だから(だれにも)相談できない、という指摘は受けたことはないです。たぶん、女性のほうが話しやすいという話題は、女性の先生に相談しているんじゃないかな。

学生C そうなんですか!ちょっと安心しました。

田之上さん 性の話でいえば、男子には男子特有の悩み、たとえば精通についてとかは、女性養護教諭には話しづらいことかもしれないし、むしろ「男性養護教諭だから」話してくれたことかなぁと思って聞いています。「男性だから、女性だからこの話題は出しづらい、だから養護教諭に向いていないんだ」というような、ジェンダーに極端にこだわることはない、と思います。

――養護教諭として働いている、やりがいについて教えてください。

田之上さん 養護教諭がいる保健室って、学校の他の場所と大きな違いがあるんです。なんだと思いますか?

学生D 大きな違い?何だろう…。

田之上さん 保健室は、「子どもたちが唯一自分で選んで訪れる場所」ということです。クラスや教室は子どもたちが自分で選べないし居なくてはならない場所かもしれない。でも、保健室は、「しんどいから行く・行かない」や、「ちょっと悩みを聞いてほしいときに行く・行かない」」は、自分で選べるんですよね。

学生D ああ、たしかに!

田之上さん さっき「唯一」って言ったけど、実はトイレも自分で選んで行く場所。でも、トイレは一人の空間だけど、保健室は養護教諭がいます。その、「必ず誰かがいる場所」を選んでいく意味を考えると、すごく保健室って大切なところだと思いませんか?

学生D そうですね、子どもによっては、大きな存在ですね。

田之上さん 担任の先生じゃない人=養護教諭と接することで、元気になったり笑顔になったりして帰っていく子どもを見ると、やりがいを感じます。

――新型コロナウイルス感染予防対策で、20年度で大変だったことは何でしょうか?

田之上さん 行事がどんどんずれていったことですね。健康診断の準備をしたのに、学校が休校になる。休校あけに健康診断を始めようと思ったら別の用事が発生する。修学旅行のために、遠足のためにと予定していたけれど、延期になる…。せっかく行った準備が無駄になったりするなど、とにかく苦労しました。

学生A 学校全体が本当に大変だったんですね。

田之上さん そうですね。養護教諭特有の大変さといえば、衛生の中心的な役割を担当していることでしょうか。

学生B あ、たしかにそうですね!

田之上さん 消毒が必要な場所はここですよ、こうやって消毒してくださいねということを発信したり、健康観察で大切なポイントを尋ねられたり、行政のガイドラインが出ているにしろ、やっぱり自分がやらないといけないことが多くて、大変でした。

学生C 専門的な知識が必要ですね。大学で勉強したことを思い出したり、ご自身で調べられたりしたんですか?

田之上さん もちろん、自分で何とかしたものもあるけれど、地域の支部会で、いろんな先生と情報交換したり、資料をいただいたりして、学ばせてもらった部分も大きいです。

学生D ほかの学校の先生とも協力することができるのですね。

田之上さん 養護教諭は学校に一人であることも多く、専門的な部分は学校内だと頼られるシーンもありますが、やっぱり不安なときもあります。そんなときは、学外の先生方とつながりがあると、とても助かりますよ。


次回は一週間後に更新予定です!養護教諭を目指す人が気になる「教員採用試験」についてお聞きします。

【引用文献】
中村千景(2016)「男性養護教諭に関する研究動向」帝京短期大学紀要 = Bulletin of Teikyo Junior College (19), 73-79